秋田弁 - Wikipedia

秋田弁

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秋田県の位置。
平成の大合併後の秋田県の市町村。橙色は市、緑色は町、紫色は村。薄い線は市町村境界。濃い線は郡境界または旧郡境界。1:秋田市 2:能代市 3:横手市 4:大館市 5:男鹿市 6:湯沢市 7:鹿角市 8:由利本荘市 9:潟上市 10:大仙市 11:北秋田市 12:にかほ市 13:仙北市
平成の大合併前の秋田県の市町村。1:秋田市 2:能代市 3:横手市 4:大館市 5:本荘市 6:男鹿市 7:湯沢市 8:大曲市 9:鹿角市

秋田弁(あきたべん)とは、日本秋田県で用いられている日本語の方言である。方言学では秋田方言(あきたほうげん)と呼ばれる。この項目では方言学的な文脈では秋田方言という名称を使用する。

目次

[編集] 区画

[編集] 日本語方言内での位置付け

日本語の方言区分の一例。

日本語方言の区画は方言区画論と呼ばれ、多くの方言学者により区画が発表されているが、大半の区画は東条操の案に近く、一般にも東条案に近いものが広く用いられている。日本語の方言の中では秋田方言は本土方言の中の東日本方言に、さらに東日本方言の中の東北方言に含まれる。東北方言は北奥羽方言(北奥方言)と南奥羽方言(南奥方言)に分けられる。秋田方言は青森県岩手県中北部(旧南部藩地域)、山形県沿岸部(庄内地方)、新潟県北部(阿賀野川以北)の方言とともに北奥羽方言に含められる。金田一春彦による案は、他の案と大きく異なり、近畿地方を中心として同心円状に内輪方言、中輪方言、外輪方言、南島方言と区画したものである。この区画は、近畿や四国などが音韻やアクセントの面で保守的であり、そこから離れるほど新しい変化が多いとしたものであるが、この区画では秋田方言は外輪方言に含められている[1]

[編集] 秋田方言内の区画

秋田方言の下位区分。
由利・庄内・北越方言圏。

秋田方言(秋田弁)は近隣の他県(青森県、山形県、岩手県など)の方言に比べると県内共通の特徴を持っていると認められるが[2]、それでも例えば秋田県の北東端の鹿角地方と南西端の由利地方とでは明らかな地域差が認められる。

秋田方言の内部の区画としては、まず秋田県を南北に三分割して、「北部方言」「中央方言」「南部方言」を立てるものがある。このうち北部方言は鹿角地方、北秋田地方、山本地方の領域であり、中央方言は南秋田地方、河辺地方、南部方言は仙北地方、平鹿地方、雄勝地方)、由利地方を含む範囲である。

鹿角地方と由利地方を独立させ、北部方言を鹿角方言と県北方言に、南部方言を県南方言と由利方言に分ける区画もある。鹿角地域は江戸時代には南部藩(盛岡藩)に属し、現在も語彙や文法などに旧南部藩領特有の表現が存在している。由利地方も亀田藩本荘藩矢島藩といった小藩が分立していた地域で、南に隣接する庄内方言(庄内弁)との関係が深い。このように歴史を反映した言語の違いが見られる地域であり、方言の話し手の帰属意識などから見ても、これらの地域を独立させて扱うことができる。

由利方言の南に隣接する山形県沿岸部の庄内方言は、山形県内陸部の方言と様々な面でかなり異なって北奥羽方言的な色合いが濃く、秋田県の方言に連なる特徴が多い。この庄内方言と、さらに新潟県北部の北越方言とを合わせて、「由利・庄内・北越方言圏」と呼ぶことがある。これは、東北方言的な発音が強く見られるにも関わらず、他地域の東北方言で極めて使用頻度が高い推量・意思の「-ベ」が全く現れず、推量と意思で別の表現を用いることや、秋田県や山形県の他地域で広く発達している聞き手尊敬の「-シ」(「-ス」)がほとんど用いられないことなどの特異性があるためである[3]

河川の流域から、鹿角方言と県北方言の地域を米代川流域方言、中央方言と県南方言を雄物川流域方言、由利方言を子吉川流域方言とする区分もある。また少数ながら、一部の語彙や語法に関して、海岸地帯と内陸地帯で違いが見られる場合もある。

以上の区画と、平成の大合併前後の自治体との対応関係を整理して示すと以下のようになる[4][5]

秋田方言の区画
三区画 五区画 河川区画 二区分 地方 自治体(平成の大合併後) 自治体(大合併前)
北部方言 鹿角方言 米代川流域方言 内陸地帯 鹿角地方 鹿角市鹿角郡 鹿角市・鹿角郡
県北方言 北秋田地方 大館市北秋田市北秋田郡 大館市・北秋田郡
海岸地帯 山本地方 能代市山本郡 能代市・山本郡
中央方言 中央方言 雄物川流域方言 南秋田地方 男鹿市南秋田郡 男鹿市・南秋田郡
河辺地方 秋田市 秋田市・河辺郡
南部方言 県南方言 内陸地帯 仙北地方 仙北市大仙市仙北郡 大曲市・仙北郡
平鹿地方 横手市 横手市・平鹿郡
雄勝地方 湯沢市雄勝郡 湯沢市・雄勝郡
由利方言 子吉川流域方言 海岸地帯 由利地方 由利本荘市にかほ市 本荘市由利郡

[編集] 音韻

詳細は秋田弁の音韻を参照

秋田方言の音韻(発音)は、他地域の東北方言にも言えることであるが、共通語との差が大きい。以下では、発音表記に国際音声記号 (IPA) を用い、音素/ / で、具体的音声は [ ] で囲んで表記する。

[編集] 母音

[編集] 単母音

共通語と秋田方言の単母音の調音位置の模式図。上が共通語、下が秋田方言のもの。台形の左ほど舌の盛り上がりの位置が前であり、右ほど奥である。また台形の上ほど口の開きが小さく、下ほど大きい。母音の発音には年代差、地域差、個人差がある。

秋田方言の母音音素は、共通語より1つ多い、/a//i//u//e//ɛ//o/ の6つが認められる。 /a//o/ は共通語のア、オと比べて口の開き方がやや狭い傾向があるが、聴覚上はそれほど違いが目立つものではない。しかし、他の4つの母音はいずれも共通語にない非常に特徴的な発音である。

共通語のイは非円唇前舌狭母音/i/ であるが、秋田方言の /i/ の音声はかなり中舌寄りの [ï] である。また、共通語のウは唇の丸めが弱い非円唇後舌狭母音[ɯ] でありやや中舌寄りであるが、秋田方言ではさらに唇の丸めが弱く中舌寄りの [ɯ̈] である。そのため、/i//u/ は共通語のイとウよりも互いに近く発音される。

子音 /s//c//z/ と結合した場合には、/i//u//i/ に統合されており、共通語のシとスにあたる音節は [sï] 、チとツにあたる音節は [ʦï] (語中では [zï])、ジとズにあたる音節は [ʣï] (語中では [ ̃ʣï])と発音されて区別がない。/su//cu//zu/ という音節が欠如しているとみなすことができ、これは北奥羽方言に共通する特徴である。しかし個人によっては南奥羽方言のようにどちらも母音を [ɯ̈] と発音する話者も存在する[6]。 この特徴を持った方言は一般にはズーズー弁として知られている。また、文字教育を受けた現代の高年層・中年層の中には、シ・チ・ジを [sï][ʦï][ʣï] と発音し、ス・ツ・ズを [sɯ̈][ʦɯ̈][ʣɯ̈] と発音して区別していると意識している者も存在する[7]

共通語のエは非円唇前舌半狭母音 [e]非円唇前舌半広母音 [ɛ] の中間の [e̞] であるが、秋田方言の /e/ の発音は共通語よりやや狭く、基本母音[e] とほぼ等しい。

/i//e/ が子音と結合せず母音単独の場合はどちらも /e/ と発音され区別がない。つまり共通語のイとエにあたる音節の区別がない。具体的な発音は[e̞][e][ɪ] のような発音でやや幅がある。しかし、高年層では、「胃」「胆」のようにイという母音単独で語を形成する場合に限り、直前に軽い摩擦音を伴って [ʲï][ɾï] と発音される傾向が強く、「絵」「柄」は [e] と発音されて区別がある。やや世代が下がると、「胃」「胆」も [e] と発音されて区別されなくなる傾向がある。

共通語にない母音音素 /ɛ/ は、共通語のアイ、アエにあたる連母音が融合してできたものであり、他の母音音素に比べて安定していない。世代が下がると /e/ との区別が失われる傾向にあり、中年層でも既に区別しない発音が一般的である。

[編集] 連母音

共通語の /ai//ae/ は融合して /ɛ/ となっており、[ɛ][æ] のように発音される。発音時間は短音から長音の間で一定していない。秋田方言に元々存在しなかった新しい語彙では融合せず、[ae] (アエ)になることが普通である。また、米代川の上流地域では普通の語でも融合しない /ai/ が優勢な地点が多い[8]

共通語の /oi//oe//ie//ue/ はしばしば融合して /e/ になっており、/ui/ は融合して /i/ になっていることが多い。動詞の終止・連体形に現れる /au//ou/ は融合しない。

[編集] 母音の無声化

共通語のイとウにあたる狭母音/i//u/ は、無声子音に挟まれた場合や、無声子音と結合して語末に位置した場合に母音の無声化を起こす(IPAでは母音の下に。を付けて表す)。例えば「北」は [kɕï̥ta] 、「櫛」は [kɯ̥̈sï] 、「茄子」は [nasï̥] のように発音される。この条件を満たす場合でも、/i//u/ を含む音節がアクセントの上で高く発音される場合は無声化が起こらない。

[編集] 子音

秋田方言の子音音素は共通語と同じ /k//s//t//c//n//h//m//r//ɡ//d//b//p/ が、また半母音として /j//w/ が認められる。

[編集] 直音

直音とは拗音や促音、撥音以外の音節を指す。

共通語のカ行にあたる /k/ 、タ・テ・トにあたる /t/ 、チ・ツにあたる /c/ は、語頭ではそれぞれ [k][t][ʦ] と発音される。語中では後述するように有声化が起こり、それぞれ [ɡ][d][z] と発音される。/ki/ は強い摩擦音を伴って、語頭で [kɕï] 、語中で ʑï] と発音される。

共通語のガ行にあたる /ɡ/ 、ダ・デ・ドにあたる /d/ 、ザ行にあたる /z/ 、バ行にあたる /b/ は、語頭ではそれぞれ [ɡ][d][ʣ][b] と発音される。語中では後述するように鼻音化が起こり、それぞれ [ŋ][ ̃d][ ̃ʣ][ ̃b] と発音される。/ɡi//ki/ と同様に強い摩擦音を伴って、語頭で ʑï] 、語中で ʑï] と発音される。

共通語のサ行にあたる /s/ 、ザ行にあたる /z/ は、シ・ス、ジ・ズにあたる場合に合一してそれぞれ /si//zi/ となっており、 [sï] (シ)、[ʣï] (ジ)と発音される。共通語のシ・ジより母音が中舌寄りで、子音の口蓋化がないため、ス・ズにも近く聞こえる。一方、共通語のセ、ゼにあたる /se//ze/ の場合には、子音が口蓋化し [ɕe] (シェ)、[ʥe] (ジェ)のように発音される。/se/ はさらに [çe] (ヒェ)、[he] (ヘ)と発音されることもある。/s/ は語中でも有声化しない。

共通語のハ行にあたる /h/ は、ハ、ホにあたる /ha//ho/[ha] および [ho] と発音され、フにあたる [hu][ɸɯ̈] と発音されて 共通語とほぼ同じだが、ヒにあたる /hi/ と ヘにあたる /he/ が唇の丸めを伴って [ɸï] (フィ)、[ɸe] (フェ) と発音されることがあるのが異なる。

[編集] 拗音

拗音とは子音が硬口蓋化円唇化されたもので、硬口蓋化されたものを開拗音、円唇化されたものを合拗音という。現代共通語には開拗音しかない。

[編集] 開拗音

開拗音は共通語と同じようにキャ行、シャ行、チャ行、ニャ行、ヒャ行、ミャ行、リャ行、ギャ行、ジャ行、ビャ行、ピャ行にあたるものが存在する。シャ行、チャ行、ジャ行にあたる /sj//cj//zj/ はそれぞれ口蓋化した [ɕ][ʨ][ʥ] と発音され共通語と同じである。/hi//he/ が唇の丸めを伴って発音されるのと同様、ヒャ行にあたる /hj/ も唇の丸めを伴って [ɸʲ] と発音されることがある。

[編集] 合拗音

共通語のカ 、ガにあたる音節のうち、歴史的仮名遣で「くわ」「ぐわ」と表記されるものが、秋田方言においては [kʷa] (クヮ)、[ɡʷa] (グヮ)と発音される。これを合拗音という。合拗音は中世初期に漢字音に伴って取り入れられ定着したものである。江戸時代半ばには江戸や京都では直音のカ、ガと区別がなくなったが、秋田方言では高年層には歴史的仮名遣に対応する区別が残っている。例えば「火事」(歴史的仮名遣でくゎじ)と「家事」(かじ)はそれぞれ [kʷa ̃ʣï] (クヮジ)と [ka ̃ʣï] (カジ)で区別がある。

本来は合拗音は漢字音にしか現れない音だが、秋田方言では /kuwa/ から /kwa/ への変化により和語にも合拗音が現れる場合がある。例えば「食わない」が [kʷanɛ] (クヮネァ)、「桑」や「鍬」が [kʷa] (クヮ)となることがある。

合拗音は日本の各地に残っていたが、ほとんどの地域で衰退が著しく、秋田方言でも同様である。現在では合拗音の発音は高年層の一部に僅かに見られるのみになっており、カ・ガで発音されるのが普通になっている[9][10]

[編集] 有声化と鼻音化

秋田方言では、共通語のカ行にあたる /k/ 、タ・テ・トにあたる /t/ 、チ・ツにあたる /c/ は語中で有声化(濁音化)して、それぞれ [ɡ][d][z] と発音される。サ行にあたる /s/ やパ行にあたる /p/ は有声化しない。

この有声化は、促音(ッ)や撥音(ン)の直後の子音には起こらない。長音の直後の場合は有声化するのが普通だが、稀に有声化しない場合もある。また直前の母音が無声化する場合は、[kɕï̥ta] (北)、[sï̥ta] (舌)のように子音は有声化しない。しかし、「口」(/kuci/)、「机」(/cikue/)のように、子音を挟んで狭母音が連続する場合に、母音の無声化が起こらずに子音の有声化が起こり、[kɯ̈zï] (クジ)、[ʦïɡɯ̈e] (チグエ)のように発音される場合がある。

語中では共通語のガ行にあたる /ɡ/ 、ダ行にあたる /d/ 、ザ行にあたる /z/ 、バ行にあたる /b/ が鼻音化して、それぞれ [ŋ][ ̃d][ ̃ʣ][ ̃b] と発音される。鼻音化も撥音の直後では起こらない。

語中では /k//t//c/ が 有声化する一方、/ɡ//d//z/ が鼻音化するため、語中での /k//ɡ/ は鼻濁音か非鼻濁音かで区別され、/t//d//c//z/ は前鼻音の有無で区別されるため、語中でも元々の濁音と有声化により生じた濁音が混同されることはない。前鼻音は特に早い発話ではしばしば直前の母音と融合して鼻母音のように発音される。

鼻音化は古い音の残存であるが、現在は急速に衰退しつつあり、中年層ではあまり見られず、若年層では消滅している。ただし語中の /ɡ/[ŋ] と発音される傾向は若年層においても非常に強い。有声化は鼻音化と比較するとよく保たれているが、それでも若年層では衰退しつつある[11]

[編集] 特殊音素

秋田方言には、共通語と同じく、/ɴ/ (ン、撥音)、/Q/(ッ、促音)、/R/ (ー、長音)といった特殊音素が認められる。このうち /ɴ/ は、共通語や多くの方言では語頭に現れないが、秋田方言では語頭にも立つことができる。例えば /ɴda/ (そうだ)や /ɴɡa/ (お前)、/ɴmɛ/ (甘い)などの例がある。

日本語の方言は、撥音、促音、長音がカ、キャのような音節と同じ時間で発音され、発音に一定の時間的単位である拍(モーラ)が認められる「モーラ方言」と、撥音、促音、長音が直前の音節に従属し、等間隔のリズムが十分に存在しない「シラビーム方言」に分けられる。共通語や多くの方言はモーラ方言であるが、秋田方言はシラビーム方言に属する。例えば「学級新聞」は共通語では「ガ・ッ・キュ・ー・シ・ン・ブ・ン」と8つに区切られるが、秋田方言では「ガッ・キュー・シン・ブン」と4つに区切られ、共通語よりかなり短く発音される。特に長音が短く発音される傾向が著しい。[12]

[編集] 音韻体系

伝統的な秋田方言に現れる音節を整理すると以下のようになる。上から音素、代表的な音声、この項目で用いる仮名表記の順に記す。

秋田方言の音韻体系
子音 母音 /a/ /i/ /u/ /e/ /ɛ/ /o/ /ja/ /ju/ /jɛ/ /jo/
/Ø/ 音素 /a/ /i/ /u/ /e/ /ɛ/ /o/ /ja/ /ju/ /jɛ/ /jo/
音声 [a] [ï] [ɯ̈] [e] [ɛ] [o] [ja] [jɯ̈] [jɛ] [jo]
表記 (イ) エァ イェァ
/k/ 音素 /ka/ /ki/ /ku/ /ke/ /kɛ/ /ko/ /kja/ /kju/ - /kjo/
音声(語頭)
音声(語中)
[ka]
[ɡa]
[kɕï]
ʑï]
[kɯ̈]
[ɡɯ̈]
[ke]
[ɡe]
[kɛ]
[ɡɛ]
[ko]
[ɡo]
[kʲa]
[ɡʲa]
[kʲɯ̈]
[ɡʲɯ̈]
- [kʲo]
[ɡʲo]
表記(語頭)
表記(語中)




ケァ
ゲァ

キャ
ギャ
キュ
ギュ
- キョ
ギョ
/ɡ/ 音素 /ɡa/ /ɡi/ /ɡu/ /ɡe/ /ɡɛ/ /ɡo/ /ɡja/ /ɡju/ - /ɡjo/
音声(語頭)
音声(語中)
[ɡa]
[ŋa]
ʑï]
ʑï]
[ɡɯ̈]
[ŋɯ̈]
[ɡe]
[ŋe]
[ɡɛ]
[ŋɛ]
[ɡo]
[ŋo]
[ɡʲa]
[ŋʲa]
[ɡʲɯ̈]
[ŋʲɯ̈]
- [ɡʲo]
[ŋʲo]
表記(語頭)
表記(語中)

カ゜

キ゜

ク゜

ケ゜
ゲァ
ケ゜ァ

コ゜
ギャ
キ゜ャ
ギュ
キ゜ュ
- ギョ
キ゜ョ
/s/ 音素 /sa/ /si/ - /se/ /sɛ/ /so/ /sja/ /sju/ /sjɛ/ /sjo/
音声 [sa] [sï] - [ɕe] [sɛ] [so] [ɕa] [ɕɯ̈] [ɕɛ] [ɕo]
表記 - シェ セァ シャ シュ シェァ ショ
/z/ 音素 /za/ /zi/ - /ze/ /zɛ/ /zo/ /zja/ /zju/ /zjɛ/ /zjo/
音声(語頭)
音声(語中)
[ʣa]
[ ̃ʣa]
[ʣï]
[ ̃ʣï]
- [ʥe]
[ ̃ʥe]
[ʣɛ]
[ ̃ʣɛ]
[ʣo]
[ ̃ʣo]
[ʥa]
[ ̃ʥa]
[ʥɯ̈]
[ ̃ʥɯ̈]
[ʥɛ]
[ ̃ʥɛ]
[ʥo]
[ ̃ʥo]
表記(語頭)
表記(語中)


- ジェ
ジェ
ゼァ
ゼァ

ジャ
ジャ
ジュ
ジュ
ジェァ
ジェァ
ジョ
ジョ
/t/ 音素 /ta/ - - /te/ /tɛ/ /to/ - - - -
音声(語頭)
音声(語中)
[ta]
[da]
- - [te]
[de]
[tɛ]
[dɛ]
[to]
[do]
- - - -
表記(語頭)
表記(語中)

- -
テァ
デァ

- - - -
/c/ 音素 /ca/ /ci/ - - - /co/ /cja/ /cju/ /cjɛ/ /cjo/
音声(語頭)
音声(語中)
[ʦa]
-
[ʦï]
[zï]
- - - [ʦo]
-
[ʨa]
[ʑa]
[ʨɯ̈]
[ʑɯ̈]
[ʨɛ]
[ʑɛ]
[ʨo]
[ʑo]
表記(語頭)
表記(語中)
ツァ
-

- - - ツォ
-
チャ
ジャ
チュ
ジュ
チェァ
ジェァ
チョ
ジョ
/d/ 音素 /da/ - - /de/ /dɛ/ /do/ - - - -
音声(語頭)
音声(語中)
[da]
[ ̃da]
- - [de]
[ ̃de]
[dɛ]
[ ̃dɛ]
[do]
[ ̃do]
- - - -
表記(語頭)
表記(語中)

- -
デァ
デァ

- - - -
/n/ 音素 /na/ /ni/ /nu/ /ne/ /nɛ/ /no/ /nja/ /nju/ - /njo/
音声 [na] [nï] [nɯ̈] [ne] [nɛ] [no] [nʲa] [nʲɯ̈] - [nʲo]
表記 ネァ ニャ ニュ - ニョ
/h/ 音素 /ha/ /hi/ /hu/ /he/ /hɛ/ /ho/ /hja/ /hju/ /hjɛ/ /hjo/
音声 [ha] [ɸï] [ɸɯ̈] [ɸe] [ɸɛ] [ho] [ɸʲa] [ɸʲɯ̈] [ɸʲɛ] [ɸʲo]
表記 フィ フェ フェァ フャ フュ フェァ フョ
/b/ 音素 /ba/ /bi/ /bu/ /be/ /bɛ/ /bo/ /bja/ /bju/ - /bjo/
音声(語頭)
音声(語中)
[ba]
[ ̃ba]
[bï]
[ ̃bï]
[bɯ̈]
[ ̃bɯ̈]
[be]
[ ̃be]
[bɛ]
[ ̃bɛ]
[bo]
[ ̃bo]
[bʲa]
[ ̃bʲa]
[bʲɯ̈]
[ ̃bʲɯ̈]
- [bʲo]
[ ̃bʲo]
表記(語頭)
表記(語中)




ベァ
ベァ

ビャ
ビャ
ビュ
ビュ
- ビョ
ビョ
/p/ 音素 /pa/ /pi/ /pu/ /pe/ /pɛ/ /po/ /pja/ /pju/ - /pjo/
音声 [pa] [pï] [pɯ̈] [pe] [pɛ] [po] [pʲa] [pʲɯ̈] - [pʲo]
表記 ペァ ピャ ピュ - ピョ
/m/ 音素 /ma/ /mi/ /mu/ /me/ /mɛ/ /mo/ /mja/ /mju/ - /mjo/
音声 [ma] [mï] [mɯ̈] [me] [mɛ] [mo] [mʲa] [mʲɯ̈] - [mʲo]
表記 メァ ミャ ミュ - ミョ
/r/ 音素 /ra/ /ri/ /ru/ /re/ /rɛ/ /ro/ /rja/ /rju/ - /rjo/
音声(語頭)
音声(語中)
[ɺa]
[ɾa]
[ɺï]
[ɾï]
[ɺɯ̈]
[ɾɯ̈]
[ɺe]
[ɾe]
[ɺɛ]
[ɾɛ]
[ɺo]
[ɾo]
[ɺʲa]
[ɾʲa]
[ɺʲɯ̈]
[ɾʲɯ̈]
- [ɺʲo]
[ɾʲo]
表記 レァ リャ リュ - リョ
/w/ 音素 /wa/ - - - /wɛ/ - - - - -
音声 [ɰa] - - - [ɰɛ] - - - - -
表記 - - - ウェァ - - - - -
/kw/ 音素 /kwa/ - - - - - - - - -
音声(語頭)
音声(語中)
[kʷa]
[ɡʷa]
- - - - - - - - -
表記(語頭)
表記(語中)
クヮ
グヮ
- - - - - - - - -
/ɡw/ 音素 /ɡwa/ - - - - - - - - -
音声(語頭)
音声(語中)
[ɡʷa]
[ŋʷa]
- - - - - - - - -
表記(語頭)
表記(語中)
グヮ
ク゜ヮ
- - - - - - - - -
特殊音素
  撥音 促音 長音
音素 /ɴ/ /Q/ /R/
表記

[編集] 表記

秋田方言は公的に使われることがなく、正書法を持っていない。秋田方言を文字で表記したものとしては、方言学関係の書籍や論文、秋田方言による昔話を収録した書籍、秋田方言話者による個人的なウェブページなどがあるが、これらの表記法もまちまちである。その理由として、秋田方言の音韻が京都や東京のものと大きく違っており、仮名で表記することが容易でないことが挙げられる。例えば共通語の「い」と「え」、「し」と「す」、「ち」と「つ」、「じ」と「ず」などは秋田方言では互いに合流しており、共通語から見れば中間的な発音になっているし、語中で濁音化したカ行・タ行と、鼻音化したガ行・ダ行を書き分けることも仮名では容易ではない。ガ行鼻濁音には「カ゜」のように半濁点を付けたものが共通語の発音表記としても比較的普及しているが、ザ行、ダ行、バ行の入り渡り鼻音を仮名で表記する方法は確立していない。秋田方言の母音音素 /ɛ/ も共通語に存在しないため、表記方法に混乱が見られる。

この結果、学術的な目的でない文章では特に、「い」と「え」、「し」と「す」、「ち」と「つ」、「じ」と「ず」の表記が混乱していたり、語中で濁音化したカ行、タ行と鼻音化したガ行、ダ行の書き分けをしていなかったり、/e//ɛ/ の区別をしていなかったりすることがしばしば見られる。

この項目では、方言学で一般的な方法に従い、「い」と「え」はエに、「し」と「す」はシに、「ち」と「つ」はチに、「じ」と「ず」はジに統一して表記し、語中で濁音化したカ行とタ行はガ行とダ行で、語中で鼻音化したガ行とダ行はカ゜行とダ行で、/ɛ/ はエァのようにエ段にァを付けて表記する。音節ごとの表記は上記の音韻体系の表で示した仮名に従う。また共通語は平仮名で、秋田方言は片仮名で表記する。

[編集] アクセント

詳細は秋田弁のアクセントを参照

[編集] アクセント体系

日本語の方言には高低アクセントを持っている方言(有アクセント)と持っていない方言(無アクセント)があるが、秋田県は全域が有アクセントであり、東京式アクセントの体系を持っている[13]

秋田方言のアクセントの体系は、共通語と同じく、高さが下がる場所の位置と有無のみを弁別する体系であり、東京式アクセントの体系である。高さが下がる場所を下がり目、下がり目の直前の音節をアクセント核という。秋田方言で弁別される核は共通語や多くの方言と同じく下げ核(次の音節を下げる核)である。アクセントを特定の単語から離れて一般化して示すときは、拍または音節を○で示し、下げ核をで表す。

典型的な秋田方言における一音節語から四音節語までの語には、以下のような型の区別があり、n音節語にはn+1種類の型がある[14]という音節がアクセント核であり、アクセント核は一語に一つもないか一つだけあるかのいずれかである。例えば○は二音節で第一音節に下げ核がある語を表す。この体系は共通語と同じである。

核の位置 一音節語 二音節語 三音節語 四音節語
なし ○○ ○○○ ○○○○
第一音節 ○○ ○○○
第二音節   ○○
第三音節     ○○ ○○
第四音節       ○○○

共通語では、○○、○○○のような核を持たない型は、単独の場合に「低高高…」のように第一拍と第二拍の間に上昇があり、「平板型」と呼ばれる。それに対し、秋田方言では「低低低…」のように上昇が見られず、低く平らに発音される[14]。これを特に「低平型」という場合もある。

秋田方言のアクセントで特徴的なのは、一音節語において核を持たない○の型と核を持つの型とが、助詞を付けなくても区別できることである。共通語では単独の場合はどちらも平板な「高」となって区別ができないが、秋田方言では、○型は単独の場合は弱い下降が見られ、また母音の響きがやや後に残るように発音される。一方、型は弱い上昇が見られ、また母音を急に短く切って止める[15]

二音節以上の語でも、○○、○○○のような核を持たない型(平板型)と、○、○○のような型(尾高型)は、助詞が付かない単独の場合には共通語では区別ができない。一方、秋田方言では平板型は低く平らであるかまたは最後がやや下がり気味で、最後の音節がやや長い発音になるのに対し、尾高型は最後の音節がやや上がり気味で、最後の音節が短く切れるように発音されて区別がある。秋田県北部では尾高型の最後の音節にはっきりとした下降が見られる[16]

[編集] 他方言との対応

現代の日本語の諸方言のアクセントは、11世紀末から12世紀の『類聚名義抄』に記録されているようなアクセント体系が変化して派生したと考えられている。当時の京都のアクセント体系は高起式と低起式を区別し、上げ核と下げ核を弁別するものだったと考えられている。現代の京都アクセントは高起式と低起式を区別し、下げ核を弁別するものである。また東京アクセントや秋田アクセントは下げ核のみを弁別するものである。

院政時代の京都アクセントは現代のほとんどの方言よりも区別する型の種類が多い複雑なものだった。院政時代の京都アクセントにあった型の区別を「類」という。例えば二拍名詞には五つの類があり、一類、二類、三類、四類、五類のように呼ばれている。現代の諸方言は「類」の区別が統合した姿をしている。また、語が持つ母音や子音などの条件によって類が複数の型に分裂している例もある。

秋田のアクセントは、名詞の類の統合の仕方などが東京などと異なり、東京式アクセントの中の「外輪東京式」に分類される。一方共通語アクセントは「中輪東京式」である。外輪東京式の原型に近いものは大分県愛知県豊橋市などに分布する。秋田のアクセントは外輪東京式の原型から、核の直後の音節が広母音(ア・ウ・オ)を持つ場合に限り核の一音節後退を起こした変種である[13]

[編集] 名詞

院政時代の京都アクセント、現代東京アクセント、現代秋田アクセントの対応関係を音節数ごとに示す。アクセント体系上の弁別単位を上段に、具体的高低を下段に記す。京阪式アクセントについては、高起式をH、低起式をLで示す。また単独の形と助詞が付いた形を併記し、助詞のアクセントを括弧内に示す。ただし助詞のアクセントは院政時代には独立していたため、直前の名詞に従属するようになった鎌倉時代のものを記す。母音によって型が分裂する場合があるが、その場合はどの音節の母音により型が分裂するかを◎で示す。なお、名詞では秋田方言での音節数と共通語や他方言での拍数は基本的に一致するため、一音節名詞、二音節名詞はほぼ他方言の一拍名詞、二拍名詞に相当する。四音節以上では対応に例外が多いのでここでは取り上げない。

[編集] 一音節名詞

基本的に東京式アクセントの多くの地域と型が一致する。

一音節名詞のアクセントの対応
院政 東京 秋田 所属語例
一類 H○

高(高)


低(高)


低(低)
柄・蚊・毛・子・血・戸・帆・実・世
二類 H

高(低)


低(高)


低(低)
名・葉・日・藻・矢
三類 L

低(高)


高(低)


高(低)
絵・尾・木・酢・背・田・手・菜・荷・根・野・火・穂・目・芽・湯・夜・輪

院政期京都アクセントには、一拍名詞に基本的に三種類の型があった。現代の東京や秋田では一類と二類のアクセントが同じになっており、一類と二類が平板型、三類が頭高型になっている。

このような類の統合の仕方は外輪東京式および中輪東京式と一致する。内輪東京式(名古屋や岡山など)は二類が頭高型になって三類に統合しており、東京や秋田とは異なる。

[編集] 二音節名詞

秋田方言のアクセントは共通語に近い面も多いが、二音節名詞のアクセントは北奥羽方言的色合いが濃く、共通語アクセントとの違いが目立つものとなっている。

二音節名詞のアクセントの対応
院政 東京 秋田 所属語例
母音     狭母音 広母音
一類 H○○
高高
高高(高)
○○
低高
低高(高)
○○
低低
低低(低)
飴・枝・顔・風・壁・霧・口・首・腰・坂・酒・皿・下・鈴・滝・竹・爪・鳥・西・庭・布・蝿・端・蜂・鼻・羽・膝・紐・蓋・星・水・道・虫・森・床・嫁
二類 H
高低
高低(低)

低高
低高(低)
○○
低低
低低(低)
痣・石・岩・歌・音・垣・型・紙・殻・川・北・串・蝉・旅・塚・次・蔦・弦・梨・夏・橋・旗・肘・人・昼・冬・町・村・雪
三類 L○
低低
低低(高)

低高
低高(低)

低高
低高(低)
足・穴・網・泡・家・池・犬・色・腕・裏・鍵・皮・髪・草・靴・雲・米・塩・舌・島・霜・炭・谷・月・土・年・縄・波・墓・花・腹・耳・物・山・指・夢
四類 L
低高
低高(高)

高低
高低(低)

高低
高低(低)

低高
低高(低)
息・板・糸・稲・今・海・奥・傘・数・肩・鎌・今日・今朝・汁・隅・空・種・粒・苗・中・箸・肌・針・船・松・麦・屋根
五類 L
低降
低高(低)

高低
高低(低)

高低
高低(低)

低高
低高(低)
秋・汗・雨・鮎・井戸・桶・影・蜘蛛・鯉・声・琴・猿・足袋・露・鶴・鍋・春・鮒・窓・婿・夜

秋田方言の二音節名詞のアクセントで注目すべきことは、二類が一類と統合して平板型になっていることである。これは外輪東京式の重要な特徴であり、二類が三類と統合して尾高型になっている中輪東京式や内輪東京式と大きく異なる点である。

四類と五類は京阪式アクセントの地域では区別があるが、東京式アクセントの地域では区別がなく、秋田でも類としては統合している。しかし秋田では、類としては一つに統合した四類と五類が、第二音節の母音の条件によって二つの型に分裂しており、第二音節の母音が広母音(ア・ウ・オ)である語は尾高型に、狭母音(イ・ウ)である語は頭高型になる傾向が強く認められる。これは、東京や大分のように頭高型に統合してから、二音節目が広母音の場合に限って核の一音節後退が起こり型が分裂したものである。このため、二音節目が広母音の語では、三類と四類・五類の統合が起こっている。

[編集] 三音節名詞

秋田方言の三音節名詞のアクセントは類の統合の形では外輪東京式の色合いが濃いものの、二次変化として広母音への核後退が起きたため独特なものになっている。

三音節名詞のアクセントの対応
院政 東京 秋田 所属語例
母音     狭母音 広母音
一類 H○○○
高高高
高高高(高)
○○○
低高高
低高高(高)
○○○
低低低
低低低(低)
霰・筏・田舎・鰯・夫・柏・形・着物・車・煙・氷・衣・舅・印・使い・隣・額・昔・柳
二類 H○
高高低
高高低(低)
○○
低高高
低高高(低)
○○○
低低低
低低低(低)
間・小豆・毛抜き・桜・翼・釣瓶・蜥蜴・二つ・二人・緑・
百足・昨夜
三類 H○○
高低低
高低低(低)
○○
高低低
高低低(低)
○○○
低低低
低低低(低)
鮑・黄金・小麦・栄螺・力・二十歳・岬
四類 L○○
低低低
低低低(高)
○○
低高高
低高高(低)
○○
低低高
低低高(低)
頭・嵐・鼬・扇・男・表・女・鏡・刀・言葉・拳・暦・境・宝・鋏・林・東・光・袋・襖・仏・蕨
五類 L○
低低高
低低高(高)
○○
高低低
高低低(低)

低高低
低高低(低)
○○
低低高
低低高(低)
朝日・油・五つ・命・鰈・胡瓜・欅・心・姿・簾・涙・錦・柱・眼・火箸
六類 L○○
低高高
低高高(高)
○○○
低高高
低高高(高)
◎○
高低低
高低低(低)

低高低
低高低(低)
兎・鰻・烏・狐・雀・背中・高さ・狸・鼠・裸・誠・操・蚯蚓・蓬
七類 L
低高低
低高低(低)
○○
高低低
高低低(低)
◎○
高低低
高低低(低)

低高低
低高低(低)
苺・後ろ・蚕・鯨・薬・便り・盥・椿・一人

秋田の三音節名詞のアクセントは、一類と二類と三類が平板型に統合、四類が尾高型、五類が中高型、六類と七類が頭高型に統合した体系から変化したものと見られる。五類は三音節目の母音によって型が分裂し、広母音なら尾高型、狭母音なら中高型になる傾向がある。また六類と七類は二音節目の母音によって型が分裂し、広母音なら中高型、狭母音なら頭高型になる傾向がある。ただし厳密な傾向ではなく例外もある。

三音節名詞の尾高型は平板型との間を動揺しており[17][18]、地域によっては四類の語全てや、五類で三音節目に広母音を持つ語を平板型で発音する話者も存在するようである[19]

[編集] 動詞

院政時代の京都アクセント、現代東京アクセント、現代秋田アクセントの動詞アクセントの対応関係を音節数ごとに示す。院政期には終止形と連体形のアクセントに違いがあったが、現代諸方言の終止形および連体形は院政期の連体形につながるため院政期の連体形のアクセントを示す。活用語尾の母音により同じ動詞でも核の位置が移動することがあるため、核の移動に関わる音節の位置を◎で示す。なお、動詞でも秋田方言での音節数と共通語や他方言での拍数は終止形では基本的に一致するため、二音節動詞、三音節動詞はほぼ他方言の二拍動詞、三拍動詞に相当する。

[編集] 二音節動詞

[編集] 一段動詞
二音節動詞のアクセントの対応(一段動詞)
院政 東京 秋田 所属語例
母音     狭母音 広母音  
一類 H○○
高高
○○
低高
○○
低低
着る・似る・煮る・寝る
二類 L
低高

高低

高低

低高
見る

秋田方言では、二音節で上一段活用および下一段活用をする動詞(一段動詞)の終止形・連体形においては、一類が平板型、二類が頭高型で共通語と同じような区別がある。

二類では、第一音節の直後に狭母音音節が来る場合は頭高形のままであるが、第一音節の直後に広母音音節が来る活用形では、第二音節へ核の後退が起こる。例えばミネァ(見ない)、ミデ(見て)、ミダ(見た)、ミレ(見ろ)では第二音節に核がある。[20]。これは二音節の五段動詞や三音節以上の動詞の場合も同じである。

[編集] 五段・変格動詞
二音節動詞のアクセントの対応(五段・変格動詞)
院政 東京 秋田 所属語例
母音     狭母音 広母音  
一類 H○○
高高
○○
低高
○○
低低
言う・行く・産む・売る・置く・押す・買う・嗅ぐ・貸す・刈る・聞く・消す・咲く・死ぬ・知る・する・釣る・飛ぶ・泣く・抜く・塗る・乗る・引く・拭く・踏む・焼く・呼ぶ・沸く・割る
二類 L
低高

高低

高低

低高
会う・有る・打つ・折る・飼う・書く・勝つ・噛む・切る・食う・来る・漕ぐ・裂く・刺す・住む・立つ・付く・出る・研ぐ・取る・縫う・脱ぐ・飲む・這う・吐く・剥ぐ・降る・掘る・待つ・持つ・酔う・読む

二音節五段動詞の終止形でも、一類が平板型、二類が頭高型で共通語と同じような区別がある。カ行変格活用の「来る」が二類と、サ行変格活用の「する」が一類と同じアクセントを持っていることも共通語と同じである。二類では、一段動詞と同じように、活用形によっては核の後退が起こる。

音便形を取るトッテ(取って)、トッタ(取った)のような形は音便の形によってアクセントが異なる。イ音便を取るカ行五段(書く、カエダ、カエデなど)やガ行五段(漕ぐ、コエダ、コエデ)では第二音節に核がある。原型のままのサ行五段(刺す、サシタ、サシテなど)は第一音節に核がある頭高型のままである。促音便を取るタ行五段(勝つ、カッタ、カッテなど)、ラ行五段(取る、トッタ、トッテなど)、ワ行五段(会う、アッタ、アッテなど)、撥音便を取るマ行五段(噛む、カンダ、カンデなど)などでは、促音や撥音が独立した拍を形成しないために二音節扱いになり、促音便では一音節あとのテ・デ、タ・ダへ核が後退する[20]

[編集] 三音節動詞

[編集] 一段動詞
三音節動詞のアクセントの対応(一段動詞)
院政 東京 秋田 所属語例
母音     狭母音 広母音  
一類 H○○○
高高高
○○○
低高高
○○○
低低低
上げる・当てる・荒れる・入れる・植える・埋める・変える・欠ける・枯れる・消える・暮れる・越える・捨てる・抜ける・濡れる・腫れる・負ける・曲げる・燃える・痩せる・止める
二類 L○
低低高

低高低

低高低
○○
低低高
受ける・起きる・落ちる・下りる・掛ける・覚める・閉める・過ぎる・建てる・垂れる・閉じる・投げる・逃げる・伸びる・晴れる・吠える・褒める・見せる・漏れる・茹でる・分ける

三音節の一段動詞は、一類が平板型、二類は中高型(起伏型)であり、共通語と同じ区別がある。三音節でも、二類では活用形により核の後退が起きる。

[編集] 五段動詞
三音節動詞のアクセントの対応(五段動詞)
院政 東京 秋田 所属語例
母音     狭母音 広母音  
一類 H○○○
高高高
○○○
低高高
○○○
低低低
上がる・遊ぶ・当たる・浮かぶ・踊る・終わる・歌う・送る・変わる・暮らす・殺す・探す・触る・沈む・進む・使う・続く・積もる・並ぶ・登る・運ぶ・拾う・曲がる・貰う・渡る・笑う
二類 L○
低低高

低高低

低高低
○○
低低高
余る・急ぐ・痛む・動く・思う・泳ぐ・帰る・乾く・曇る・下がる・騒ぐ・叩く・頼む・作る・包む・通る・届く・直る・盗む・残る・挟む・走る・払う・光る・響く・迷う・戻る・休む・破る・許す
三類 L○○
低高高

低高低

低高低
○○
低低高
歩く・隠す・入る

三音節の五段動詞も、一類が平板型、二類が中高型で、共通語と同じ区別がある。三音節の五段動詞には、他に例外的なアクセントを持つ三類があり、少数の語が属す。東京など多くの地域では二類に統合して中高型になっている。秋田でも秋田市では三類は中高型であるが[21]、鹿角市では「歩く」に頭高型が見られる[22]

二類の「帰る」「通る」と三類の「入る」は、共通語では例外的に頭高型になっている。これは第二拍が母音単独拍でありアクセント核を置けないためである。秋田方言では、三音節に発音した場合は高年層では中高型になるが、中年層以下では頭高型になる[21]

[編集] 形容詞

院政時代の京都アクセント、現代東京アクセント、現代秋田アクセントの形容詞アクセントの対応関係を音節数ごとに示す。院政期は連体形のアクセントを示す。活用語尾の母音により同じ動詞でも核の位置が移動することがあるため、核の移動に関わる音節の位置を◎で示す。形容詞では終止形語尾イが語幹と融合して語形が一音節短くなっていることがあるため、両形のアクセントを示す。

[編集] 二音節形容詞
二音節形容詞のアクセントの対応
院政 東京 秋田 所属語例
融合     無し 有り  
一類 H○
高降

高低

高低

濃い
二類 L
低降

高低

高低

無い・良い

二音節形容詞には一類と二類があるが、現在も日常的に使われる形容詞で一類のものは「濃い」しかない。共通語や秋田方言では一類が二類に統合され、いずれも頭高型に発音される[23]。秋田方言では語尾のイが独立性を失って全体が一音節のように発音されたり、ネァ(無い)、エ(良い)のように母音が融合したりすることがある。その場合は一音節名詞三類のように頭高型で発音される。ネァガッタ(無かった)のような形では第二音節に核が後退する。

[編集] 三音節形容詞
三音節形容詞のアクセントの対応
院政 東京 秋田 所属語例
融合     無し 有り  
一類 H○○
高高降
○○○
低高高
○○○
低低低
○○
低低
赤い・浅い・厚い・甘い・荒い・薄い・遅い・重い・硬い・軽い・辛い・遠い
二類 L○
低低降

低高低

低高低

低高
青い・熱い・痛い・旨い・多い・痒い・辛い・臭い・黒い・寒い・渋い・白い・狭い・高い・近い・強い・長い・苦い・早い・低い・広い・深い・太い・古い・細い・脆い・安い・緩い・若い・悪い

三音節形容詞は、一類が平板型、二類が中高型で共通語と同じような区別がある[24]。三音節形容詞は、母音が融合して、アゲァ(赤い)、イデァ(痛い)のように二音節で発音されることがしばしばあるが、そのような場合は一類が平板型、二類が尾高型となり区別は維持される。二類の活用形では、タゲァグ(高く)、タゲァクテ(高くて)、タゲァガッタ(高かった)、タゲァバ(高ければ)のように共通語では第一拍に核を持つ活用形が、秋田方言では第二音節に核がある。

[編集] 文法

詳細は秋田弁の文法を参照

秋田方言の文法にも、様々な特徴的な現象が見られる。秋田県内でも地域差があり、また周辺の県と連続する現象もある。以下では日本語の共通語を平仮名で、秋田方言を片仮名で表記し、共通語と適宜対照しながら記述する。秋田方言として不適格な表現や、過去に存在したと思われるが現存しない形式などには*