パブリックドメイン - Wikipedia

パブリックドメイン

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パブリックドメイン (public domain) とは、著作物発明などの知的創作物について、著作者発明者などが排他的な権利を主張できず、一般公衆に属する状態にあることをいう。日本語訳として公有という語が用いられることがあるが、日本の法令上、地方公共団体が所有する財産のことを公有財産ということもあり、訳語として適切ではないという意見がある。

パブリックドメインに帰した知的創作物については、知的財産権が誰にも帰属しない。そのため、所有権など他の権利を侵害する態様で利用されない限り、その利用を排除する権限を有する者は存在せず、誰でも自由に利用することができる。

目次

[編集] パブリックドメインの原因

そもそも創作性を欠くなどの理由により保護すべき知的創作物にならない場合(例えば、著作権の場合は思想又は感情の創作的表現でなければ著作物にならないので、単なるアイデアにとどまる場合や、境界線や海岸線などの記載しかない地図のように想定される表現が限られるようなものは、そもそも創作性を欠くのでパブリックドメインか否かという問題自体が生じないし、ライセンス付与も本来ありえない)もあるが、著作物や発明の要件を満たしていながら、パブリックドメインに帰する場合としては、以下のようなものがある。

[編集] 法が権利付与を否定している場合

いわゆる著作物などには該当するが、何らかの理由により法が権利の付与を否定している場合がある。

たとえば、国や地方公共団体が創作した著作物を、著作権の対象としない法制が多数みられる。日本では、憲法その他の法令、国や地方公共団体が発する通達、裁判所の判決などは、著作権や著作者人格権の対象にならない(日本国著作権法13条)。また、イタリアでは、イタリア及び外国又は官公庁の公文書には著作権法の規定を適用しない旨の規定がある。その他、アメリカ合衆国では、連邦政府の職員が職務上作成した著作物は、著作権の対象とならない(13 U.S.C. §105)。もっとも、連邦政府の職員ではない者の著作権を連邦政府が譲り受けた場合は連邦政府による著作権の保有を否定されないし(13 U.S.C. §105)、州政府の職員が職務上作成した著作物に対しては、法は著作権の付与を否定していない。

[編集] 外国人法により保護が否定される場合

外国人による権利の享有を認めない法制が存在する場合、当該外国人による創作物は(当該法域内では)パブリックドメインに帰するといえる。たとえば、日本では外国人の権利の享有を原則として認めているが、特別法によってそれを制限することも容認している(民法3条2項)。実際に、著作権法や特許法などの知的財産権法は、外国人による権利の享有を制限している(著作権法6条、特許法25条など)。

もっとも、ベルヌ条約万国著作権条約パリ条約などにおいて、内国民待遇の原則が採られているため、これらの条約の加盟国間においては、外国人であるというだけの理由により知的財産権の享有が否定されることはない。つまり、これらの条約に加盟していない国との関係で問題になるに過ぎない。

[編集] 権利取得に必要な手続・方式の不履行

たとえば、特許権の取得において審査主義を採用している国においては、発明を完成させたとしても、その発明の新規性進歩性といった特許要件について公的機関(特許庁)による審査を経なければ、特許権を取得できない。

また、著作権の取得について方式主義を採用している国(ベルヌ条約加盟前のアメリカ合衆国など)においては、著作物を創作したとしても、必要な方式(著作権の表示、登録など)を履行しなければ、著作権は発生しない。なお、日本の著作権法は無方式主義を採用しているので、何らの方式をも採らず著作権を取得できる。

[編集] 保護期間の満了

知的創作物を対象とする独占排他権は、法定の存続期間満了により消滅する。その結果、当該知的創作物はパブリックドメインに帰する。たとえば、特許権は特許出願の日から20年をもって消滅し、著作権は著作者の死後50年または70年をもって消滅するものと規定する国が多い(著作権の保護期間)。創作活動は先人の成果の上に成り立っていることは否定できないため、創作後一定の期間が経過した場合は恩恵を受けた社会の発展のために公有の状態に置くべきとの価値判断によるものである。

[編集] 権利放棄

原則として権利(ただし財産権)を放棄することは自由なので、権利者により権利が放棄されれば法による保護を認める必要はなく、パブリックドメインの状態になる。もっとも、権利を放棄することにより他者の権利を害することはできないと解されているため、そのような場合には権利放棄は認められない。例えば、著作権者から著作物の独占的利用許諾を得ている者が存在する場合は、著作権の放棄によって誰でも著作物を利用できることになるとすると、被許諾者の財産的利益を損なう結果となるため、放棄はできないと解される。特許権の専用実施権が設定されているような場合も同様である。

なお、ある法域で成立した知的財産権の効力は当該法域でしか及ばないため(属地主義)、知的財産権の処分(譲渡、放棄など)は法域ごとに可能である。したがって、ある法域で知的財産権が放棄されパブリックドメインになったとしても、他の法域においてパブリックドメインになるとまでは言い切れず、専ら放棄当時の著作権者の意思に基づき判断せざるを得ないし、同じ対象につき法域により権利者が異なる場合は、放棄の効力は当然に他の法域に及ぶわけではない。

以上、財産権としての知的財産権は放棄可能であるのが原則であるが、ドイツ著作権法の下では著作権の放棄はできないものと理解されている。ドイツにおける Urheberrecht という概念(著作権と訳されることが多いが、実際には著作者の権利に相当する)は、財産権としての狭義の著作権と人格権としての著作者人格権が一体をなす概念として理解されており、そのような権利を他人に譲渡することはできないためである(ドイツ著作権法29条1項)。そのため、著作権が放棄された場合は、不特定多数の者に対して著作物の利用権を設定した状態と理解されることになる。

[編集] 著作権法におけるパブリックドメイン

パブリックドメインに帰した著作物であることを表示するためにしばしば使用されるマークである。万国著作権条約3条に基づく © マークに斜線を引いたものであるが、国際条約や法律に基づく効力はない。

[編集] 外国著作物に関する問題

[編集] 著作権の準拠法等にからむ問題

外国を本国とする者による著作物や外国で最初に発行された著作物につき、当該国では著作権による保護を受けずパブリックドメインの状態にあると解されるにもかかわらず、内国の著作権法によれば形式的には著作権が発生すると解される場合に、当該著作物が内国においてもパブリックドメインの状態にあるといえるかという問題がある。

このような問題が起きるのは、著作権の効力については一般的に属地主義が妥当し、国際私法上の問題として、著作権の内容や著作物の利用が著作権侵害に該当するか否か、すなわち著作権の準拠法は、著作者の本国法や著作物の最初の発行地の法ではなく利用行為があった地の法により判断されるという考え方(保護国法説)がベルヌ条約で採用されているためである。また、ベルヌ条約や万国著作権条約は、加盟国に対して保護すべき著作物について内国民待遇を要求しつつも、著作権の保護期間については相互主義(内国の保護期間より外国の保護期間が短い場合は、当該外国に属する著作物の著作権は当該外国法が保護している期間しか保護しない)を採用することを許容している。このため、内国民待遇と相互主義との関係をどう考えるかが結論に影響を及ぼすことになる。

[編集] 万国著作権条約との関係

この点、万国著作権条約は、加盟国に対し著作権の保護期間につき相互主義を採用することを許容しているが、著作権が最初から付与されない著作物については、保護期間がゼロの著作物として扱われるという公定解釈がされている。そのため、当該外国で最初からパブリックドメインの状態にある著作物については、著作権の保護期間に関して相互主義を採用している国においても、最初からパブリックドメインの状態にあることになる。日本においても、その解釈を前提に国内法が整備されている(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律3条2項)。

[編集] ベルヌ条約との関係

他方、ベルヌ条約でも、加盟国に対し著作権の保護期間について相互主義の採用を許容しているが(ベルヌ条約7条(8))、最初からパブリックドメインの状態にある著作物の扱いにつき万国著作権条約と同様の解釈ができるか否かについては公的な解釈が確立されていない。同様の解釈ができるという見解もないわけではないが、ベルヌ条約では同様の解釈はできず(つまり著作権の保護期間の問題ではない)、内国民待遇の原則を維持すべきとの見解の方が支配的である。後者の解釈によると、万国著作権条約とベルヌ条約の双方に加盟している国との間ではベルヌ条約が優先して適用されるので(万国著作権条約第17条に関する附属宣言)、両条約に加盟している国間では、ある国では最初からパブリックドメインの状態にあるとされながら、別の国では著作権の保護を受けることがあり得る。

例を挙げると、前述したアメリカ合衆国政府の職員が職務上作成した著作物は、同国の著作権法では著作権は付与されずパブリックドメインの状態にあるとされている (17 U.S.C. §105)。しかし、問題となる著作物を日本国内で利用する場合、著作者の国籍・居住地や最初の発行地にかかわらず日本法が準拠法とされ、著作権法6条3号により「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」に該当するかが検討される。そして、日米ともベルヌ条約に加盟しているため、日本は問題となる著作物の保護につき内国民待遇が要求され(ベルヌ条約5条1項)、日本の著作権法の下で著作権が発生すると解されるかどうかを判断することになる。

つまり、ある著作物について全世界的にパブリックドメインであると断言するためには、あらゆる国の法制を調べなければならない。この点、世界最長の著作権保護期間を採用しているのはメキシコの100年(著作者の死後)であるため、メキシコの法制を調べれば完全にパブリックドメインか否か確定できると主張されることがあるが、アメリカ合衆国では無名著作物、変名著作物、職務著作物の未発行著作物の保護期間について、創作から120年との規律を置いているなど、保護期間の起算点についても数々の法制があるため、単純に期間を比較すればよいというものではない。

[編集] 著作者人格権との関係

財産権としての著作権のほか、ベルヌ条約や多くの国の著作権法により人格権としての著作者人格権が保護されている。そのため、著作物についてパブリックドメインといえるためには著作者人格権が消滅していることも必要ではないかとの議論をする者もいる。

アメリカ合衆国の著作権法には、一定の範囲の視覚芸術著作物を除き著作者人格権を保護する旨の規定が存在しない。そのため、著作権が消滅すればパブリックドメインの状態になると言われている。これに対し、他の国ではベルヌ条約の要請もあり著作権とは別に著作者人格権の制度を著作権法に取り込んでいる。著作者人格権についてはその放棄を認めている国もあるが、日本においては、反対説もあるものの放棄はできないと伝統的に解されている(人格にかかわる権利であるため)。そのため、日本においては著作権を放棄しただけでは著作物は厳密にはパブリックドメインの状態になったとは言えないとの誤解に基づく。

しかし、アメリカにおいても、著作者人格権は、伝統的に著作権法に基づく権利とは理解されていなかっただけであり、同一性保持権氏名表示権は不正競争防止法の不正表示禁止に関する規定などにより実質的に保護されているとか、コモン・ローにより人格権が保護されているという説明がされている[1]。つまり、著作者人格権という呼称が与えられている権利が、著作権法制の枠内にあるか否かという問題に過ぎない。したがって、著作者人格権の問題はパブリックドメインという概念を受け入れるか否かとは別問題である。ただし、ドイツでは著作権の放棄ができないがゆえに、ドイツ法では著作権放棄に基づくパブリックドメインの状態は成り立たないのは、前述のとおりである。

実際、日本においては著作者人格権の相続は否定されるものの(民法896条但書)、法は一定範囲の遺族や遺言で指定された者に対して故人の人格的利益の請求権を有することを認めている(著作権法116条)。さらには、著作権の保護期間が経過しかつ遺族や遺言で指定した者が存在しなくなった場合でも、著作者が存しているとすればその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならず(著作権法60条)、違反者に対する罰則もあるが(著作権法120条)、それをもって著作物がパブリックドメインの状態にはないという議論はされていない。

実際問題、日本法では著作者人格権の制度があるから著作権放棄に基づくパブリックドメインはあり得ないとの議論は、後述のパブリックドメインソフトウェアが日本で存在し得るかという問題に関連して、アメリカの法制度を理解していないプログラマーとその周辺で問題になったことがほとんどであり、知的財産権の専門家の間ではそのような問題自体議論されていない。

[編集] パブリックドメインと区別されるべきもの

日本においては、1990年代以前のいわゆるパソコン通信において、ネットを通じて配布される無料のソフトウェアをPDS (Public Domain Software) と呼んでいたこと等があった。しかし、その実態としては、単に著作物の利用に関して著作権を行使しないことのみをもってパブリックドメインであると宣言したり、著作権表示を行いつつもパブリックドメインである旨の宣言をしている場合も多かった。この場合は、厳密には著作権自体は存続しており(パブリックドメインという語の用法を間違えているに過ぎないため)、単に著作権の行使を控える旨の宣言にとどまるので、パブリックドメインとは言えない。

また、日本の著作権法の下では、国の機関などが一般に周知させることを目的として作成した広報資料などは刊行物への転載が可能であり(著作権法32条2項本文)、それゆえにパブリックドメインであるという誤解がされることがある。しかし、許諾なしに認められるのは「転載」や転載のための「翻訳」(著作権法43条2号)だけであり、翻訳を除く翻案については許諾が必要なので、パブリックドメインであるとは言えない。

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  1. ^ 山本隆司『アメリカ著作権法の基礎知識』120頁以下

[編集] 関連項目


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