スペースシャトル
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スペースシャトル (Space Shuttle[1]) は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) が開発した再使用型の有人宇宙船。1981年4月12日の初打ち上げ[2][3]以来、2008年11月までに124回の打ち上げが行われている。
目次 |
[編集] 概説
[編集] 開発の経緯
NASA では、地上と地球周回軌道の間を往復し、しかも繰り返し使用することができる再使用型有人宇宙船の構想を早くから持っており、その開発は人類が月に立つ以前の1968年頃から始まっていた。
そもそもアポロ計画は、月への一番乗りを目指したソ連との熾烈な宇宙競争を背景に国家の威信をかけて推進されたもので、経済性はまったく度外視されていた。そのため個々のアポロの打ち上げには莫大なコストと多大な準備を要し、これが近い将来に予定されていた恒久的な宇宙ステーションの建造には不適切なものであることは早くから指摘されていた。軌道上に大規模な宇宙ステーションを建造するには、なによりも再使用が可能で、積荷容量が大きく、低コストでの打ち上げが可能な宇宙船を開発し、これを複数機保有することによって頻繁な宇宙へのアクセスを得ることが不可欠だったからである。
再使用が可能な宇宙船は、打ち上げ時の形状のままで地球に帰還することができるものでなければならない。そのためシャトルには必然的に燃料タンクを船体外部に取付けたデザインや、大気圏再突入後に飛行できる翼を備えたデザイン[4]が採用されることになった。
[編集] 計画の光と陰
こうして登場したスペースシャトルは、一回の打ち上げで複数の人工衛星を軌道投入することができたり、ハッブル宇宙望遠鏡のような重量級のペイロード(積荷)でもなんなく打ち上げることができたり、軌道上の故障した衛星を回収して修理を施したうえで再投入することができるなど、それまでの宇宙計画では考えられなかったことを可能にする画期的なものだった。また乗組員も従来の2〜3人から7〜8人と数が増え、これにしたがって船内の居住性も大幅に改善されたため[5]、船内ではこれまでになく幅の広い活動ができるようになった。シャトルにはまさに本格的な宇宙時代の到来を思わせるものがあったのである。
しかし当初の期待に反して、シャトルの機体構造と飛行システムはそれまでの宇宙船とは比較にならないほど大規模かつ複雑なものとなってしまった。このためNASA は次々と起る技術的トラブルを克服しながら打ち上げを続行しなければならないという苦しい立場に置かれることになり、これがスペースシャトル計画の運用性と経済性を当初から圧迫した。またシャトルの建造費は実用五番機のエンデバーが完成した1992年当時で1機あたりおよそ18億ドル (約2160億円)、また1ミッションあたりのコストは現在およそ4億5千万ドル (540億円) 前後と非常に高額なものになっており、シャトルによる人工衛星の商業打ち上げ市場開拓という当初の目論見は完全にはずれ、これを欧州宇宙機関やロシアに奪われることになってしまった。
さらにチャレンジャー、そしてコロンビアと、機体を全損して乗員全員が死亡するという大事故を2度も起したことは、スペースシャトル計画自体を度々中断させたばかりか、国際宇宙ステーション (ISS) の建造をも大幅に遅延させ、その結果としてステーションの規模の縮小という想定外の展開を招き、アメリカの宇宙ロケット計画そのものの信用が失墜してしまった。
[編集] シャトル時代の終焉
チャレンジャー事故後もシャトルの改良は継続的に行われ、シャトルの打ち上げ能力、信頼性は改善されたが、高コストという問題は解決されることがなかった。そうした中で、機体の老朽化だけは着実に進行していた。2004年1月にブッシュ大統領は2010年までにISSを完成させてシャトルを退役させる方針を示し、この方針を受けて、2010年9月30日をもってシャトル全機を退役させることになった[6]。2008年6月現在、打上げが確定している最後のミッションは2010年2月に予定されているSTS-131。以後の有人宇宙船は従来型の多段式ロケット アレスIに決定しており、再使用型有人宇宙ロケットの歴史は30年弱で幕を閉じることとなる。( → 詳細は「オリオン (宇宙船)」を参照)
[編集] ミッションの概略
スペースシャトルの打ち上げはフロリダ州のケネディ宇宙センターで行われる。打ち上げの直後から着陸までの管制は、すべてテキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターで行われる。
[編集] 打ち上げ
外部燃料タンクの液体燃料はオービタの3基のメインエンジンに供給される。打ち上げは、まず上昇する6.6秒前にメインエンジンに点火され (画像1)、次に上昇する0.5秒前に左右のブースタに点火される (画像2)。そして、メインエンジンとブースタが発生させる3000トンの推力によってシャトルは上昇を始める (画像3)[7]。
打ち上げから約20秒後、シャトルは仰向けに半回転してオービタがタンクの下側に回り込む (画像4)[8]。
約2分後、高度約45kmでブースタを切り離す (画像5)。ブースタはパラシュートを使用してフロリダから約230km離れた北大西洋上に落下し、回収船により回収されて再使用される (画像6)。 ブースタは20回ほどの再利用に耐えられるように設計されている。
8分50秒後、高度110〜150km[9]で外部燃料タンクを切り離す (画像7)。外部燃料タンクは大気圏に再突入し、インド洋や太平洋上空でばらばらになって多くは燃え尽きてしまう[10]。スペースシャトルで再使用されないのはこのタンクだけである (画像8)。
[編集] 周回軌道滞在中
軌道上では人工衛星を軌道に投入したり (画像9)、故障した人工衛星を捕獲して修理を施したり (画像10)、国際宇宙ステーションの建造を行ったりする (画像11)。また船内ではさまざまな物理・化学・生物学・天文学・気象学などの実験や計測が行われる。
[編集] 帰還
軌道離脱の許可が下りると、オービタは前後に180度反転して後部を進行方向に向け、軌道制御システム (Orbital Maneuvering System, OMS) を噴射して減速を始める。約10〜15分後に軌道離脱噴射が始まり、約3分後に再突入コースに乗る。その約10分後に機首を約40度上げた姿勢を取り、同時に余分な推進燃料を投棄する。
約10分後、高度約120kmから大気圏再突入が始まる。機体は火の玉のようになり、表面温度は摂氏1650度にも達する (画像12)。機体は4回にわたって左右に約60度機体を傾けて減速し、約15分後には滑空飛行体勢に入る (画像13)。
通常はケネディ宇宙センターに帰還するが、悪天候の場合はカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地またはニューメキシコ州のホワイトサンズ・スペースハーバー[11]の通常代替地に回航する。また緊急時には世界各地に53ヵ所指定されている緊急代替地[12]のいずれかに回航することになっているが、これらが使用されたことはこれまでに一度もない。
着陸はグライダーと同じように、滑走路前で機首を上げて減速し (画像14)、着地後はパラシュートを開いて停止する (画像15)。
ケネディ宇宙センター以外の代替地に着陸した場合はボーイング747を改造したシャトル輸送機でケネディ宇宙センターにこれを戻す (画像16)。 つまり、翼とエンジンがあっても自力で空を飛んで帰還することはできないのである。
[編集] 構成
スペースシャトルは3つの主な部分から構成されている。
- 再使用可能なオービタ (Orbiter Vehicle, OV)。大きな貨物室と3基の主エンジン(外部燃料タンクが装着されている間に使用)、2基の小さなエンジンが付いた軌道操縦システム(軌道変更や軌道離脱用)を持つ。
- 大型の外部燃料タンク (External Tank, ET)。オービタの3基の主エンジンの燃料となる液体酸素と液体水素のタンクである(前方に酸素、後方に水素のタンクがある)。打ち上げの約9分後に高度109kmで切り離され、大気圏に再突入する。部品は海に落下し、回収はされない。初期は白色に塗装されていたが、経費削減と軽量化のため現在では無塗装である。
- 2本の再使用可能な固体ロケットブースタ (Solid Rocket Boosters, SRB)。推進剤は主に過塩素酸アンモニウムの酸化剤(重量比で70%)とアルミニウムの燃料(同16%)である。打ち上げから約2分後に高度45kmで切り離され、パラシュートで落下する。海に着水した後で回収される。
[編集] オービタ
[編集] 性能諸元
以下はエンデバーの諸元:
- 全長: 37.24 メートル(122.17 フィート)
- 全高: 17.86 メートル(58.58 フィート)
- 翼幅: 23.79 メートル(78.06 フィート)
- 船体重量: 68.585 トン(15万1205 ポンド)
- 最大打上重量: 108.862 トン(24万0000 ポンド)
- 最大着陸重量: 104.326 トン(23万0000 ポンド)
- 主エンジン推力: 3 x 1.75 = 5.25 MN
- 貨物室外形寸法: 4.6 × 18.3 メートル(15 × 60 フィート)
- 最大打上積載量: 25.061 トン(5万5250 ポンド)
- 周回軌道高度: 185~963 キロメートル(100~520 海里)
- 最高速度: 時速 2万7875 キロメートル(時速 1万73217 マイル)
- 修正可能飛行経路: 2009 キロメートル(1085 海里)
- 乗員: 最小2人[13]、最大7人[14]
各シャトルは固有の名称を持ち、また NASA のオービタ命名規定に基づいた機体番号も持つ。
[編集] 取扱確認用の模型
- 通称 “パスファインダー”(初代)
- オービタ・シミュレータ、機体番号なし
- 本来のものは1977年に木材と厚紙で製作された、実物のシャトルとほぼ同じ大きさの簡略な模型で、主にマーシャル宇宙飛行センターとケネディ宇宙センター内のさまざまな施設で機体の大きさや取扱手順の確認のために使用された。パスファインダーというのも正式な名称ではなく、文字通り「先駆者」としての役割を果たす同模型につけられた通称だった。その素材からこの模型は損傷が激しく、その後まもなくお蔵入りとなり、1999年に破却された。
[編集] 展示用の模型
- 「パスファインダー (Pathfinder)」(二代目)
- 展示用オービタ、名誉機体番号 STA-098
- 1983年に日本の企業が「大スペースシャトル展」を開催するにあたり、その目玉企画に外観を細部まで詳細に復元した金属製の実物大シャトル模型を製作、これに「パスファインダー」と命名した。意味は「先駆者」。
- 同模型は同年6月から14ヵ月にわたって東京・大阪・名古屋で開催された同シャトル展で好評を博したあと、アラバマ州ハンツビルの合衆国宇宙ロケットセンターに寄贈された。同センターではこの模型に二代目「パスファインダー」の名称と名誉機体番号として STA-098 を正式に贈り、オービタの先駆者として歴代シャトルにその名を連ねさせた。現在ではこれに、外部燃料タンクの試作品 (下記 MPTA-ET) と、チャレンジャー事故後に新たに開発された新型固体ロケットブースタの試作品を装着して、同センターの中庭に展示されている。
[編集] 主推進系の試験用機材
- MPTA-ET
- 外部燃料タンクの試作品
- MPTA-098
- オービタ主エンジンの試作品
[編集] 構造試験機
- STA-099
- 飛行能力はなかったが、後に改装されてOV-099 チャレンジャーとなった。
[編集] 滑空着陸試験機
- OV-101「エンタープライズ (Enterprise)」
- 宇宙飛行能力を持たない
- 実際に飛行性能を備えたオービタとして建造された本機には、当初「憲法」を意味する「コンスティテューション (Constitution)」という名が予定されていた。ところがこれを知ったアメリカの国民的SFテレビシリーズ『スタートレック』のファンの多くが、シャトル一号機に最もふさわしい名称は同シリーズに登場する宇宙船の名称である「エンタープライズ」をおいて他にはないという誓願運動を展開、全米からホワイトハウスに40万通を超える投書が送りつけられた。これを受けたフォード大統領はNASAに改名を要請、同機はあらためて「エンタープライズ」と命名されることになった。意味は「冒険心」。
- チャレンジャー喪失後、本機を改装して実用五番機にすることも検討されたが、既存のスペア機材から新機を新たに建造した方が効率的なことが分り見送られた。現在はスミソニアン博物館群のひとつ、国立航空宇宙博物館に展示されている。
- 宇宙飛行能力を持たない
[編集] 実用機
- OV-102 「コロンビア (Columbia)」
- OV-099 「チャレンジャー (Challenger)」
- 1983年10月3日初飛行 (STS-6)
- 実用二番機となった本機は、19世紀中頃「チャレンジャー号の探検航海」として知られる一連の航海によって近代海洋学の基礎を構築した英国海軍所属艦・HMSチャレンジャー号に因んで命名された。意味は「挑戦者」。
- 初飛行から9回のミッションで、周回軌道滞在日数63日を数えたが、1986年1月28日 (STS-51L)、10回目の打上時に外部液体燃料タンクが爆発して空中分解、墜落して失われた。詳細は「チャレンジャー爆発事故」を参照。
- OV-103 「ディスカバリー (Discovery)」
- 1984年8月30日初飛行 (STS-41-D)
- 実用三番機となった本機は、18世紀中頃に三回の探検航海を行い海洋天文学や航海術の発展に多大な貢献があったジェームズ・クックの最後の航海で坐乗艦の僚船だった英国海軍所属艦・HMSディスカバリー号に因んだもの。その他にもヘンリー・ハドソンが北米探検や北西航路探検に使用したディスカバリー号、20世紀初頭に南極探検を行った英国王立地理院のRSSディスカバリー号などにもこの船名は使用されており、映画『2001年宇宙の旅』(1968) の “主要登場人物” である木星探査船もUSSディスカバリー号だったことは記憶に新しい。意味は「発見」。
- 2007年8月末現在、初飛行から33回のミッションで、周回軌道滞在日数は269日を数え、現在も活躍中。総重量11トンのハッブル宇宙望遠鏡を軌道に投入したのも本船である。
- OV-104 「 アトランティス (Atlantis)」
- 1985年10月3日初飛行 (STS-51-J)
- 実用四番機となった本機は、紀元前4世紀中頃にギリシアの哲学者プラトンが著書『クリティアス』のなかで言及した伝説の大陸・アトランティスに由来する。アトランティスは古代から現在に至るまで、考古学の専門家から一般の人々までがさまざまな想いをめぐらす「未知なる神秘」であることなどが命名の背景となった。
- 2007年8月末現在、初飛行から28回のミッションで、周回軌道滞在日数は244日を数え、現在も活躍中。シャトルの引退が発表された当初は2008年10月に予定されているSTS-125(ハッブル補修ミッション)を最後に引退し、部品取りとされることになっていたが、のちに白紙撤回され、2010年まで現役続行が決定している。
- OV-105 「エンデバー (Endeavour)」
[編集] 構造
シャトルには、その全長の大部分を占める大きな貨物室(ペイロードベイ:payload bay)がある。貨物室の扉の内側にはラジエータが取り付けられており、シャトルが軌道上にいる間は熱制御のために扉が開け放たれている。また、地球や太陽に対するシャトルの姿勢を調整することでも熱制御が行われている。
貨物室の中には「カナダアーム」とも呼ばれている遠隔マニピュレータシステムがある。これは貨物を船外から受け取ったり放出したりするためのロボットアームである(アームの設計と製造を行ったのがカナダの企業であることからアームに Canada の文字とカナダ国旗が貼られている)。コロンビアの事故以前は、Canadarm はアームが必要とされるミッションでのみ搭載されていた。2005年の飛行再開フライトSTS-114からは、大気圏再突入時に問題となるような損傷が機体にないかどうかを軌道上で検査(熱防護検査)することになり、この検査ではこのアームが非常に重要な役割を果たすため、以後の飛行では必ずアームを搭載することになった。
[編集] 改良点
スペースシャトルシステムは年ごとに膨大な数の改良が行われている。オービタの熱防護システムも、重量を節約したり作業負荷を減らすために何度か変更されている。元々使われていたシリカベースのセラミックタイルは飛行のたびに損傷がないか検査する必要があり、また水を吸収するために雨からも守る必要がある。この水の問題は当初、帰還後タイルに防水スプレーを毎回かけることで対処していた。しかし後に良い解決策が見つかった。シャトルのタイルのうち、あまり高温にさらされない大部分について、断熱性のあるフェルトのような耐熱布に交換されたのである。これによって広い面積(特に貨物室周辺)で検査が不要になった。
チャレンジャー事故の後、操縦室もグラスコックピットに加えて安全上の理由からいくつかの改良がなされている。例として、オービタが不時着する必要が生じた際の滑空飛行時の乗員脱出システムが設けられた[16]。また、国際宇宙ステーションが建設されると、これとのドッキングが出来るように、オービタ内部のエアロックが外付けのドッキングシステムを兼ねた外部エアロックに換装された。
[編集] メインエンジン
スペースシャトルの主エンジン も信頼性と推力の向上を図って何度か改良されている。設計当初の主エンジンの出力レベルを100%とすると、コロンビアとチャレンジャーに搭載されていた初期のエンジンは102%の出力があり、2001年の Block II 型エンジンではこれが109%まで向上している。打ち上げ時のミッションコントロールのアナウンスで「エンジン出力が106%まで上がります (Go to throttle-up at 106%)」といった語句を耳にすることがあるが、これはシャトルの出力レベルを設計当初の出力レベルとの比較で表現しているからである。
[編集] 外部燃料タンク
スペースシャトルの外部燃料タンクは全体が断熱材で被われており、この断熱材の色があの特徴的なオレンジ色である。1981年4月12日の初打ち上げ (STS-1) と11月12日の第二回打ち上げ (STS-2) では、太陽の照射によってタンクの温度が上昇することを防ぐためにこの断熱材の上を白く塗装していた。しかしその後の試験で白の塗装がタンクの温度に及ぼす影響は無視できるほど小さいものであることが分った。またこの二度の打ち上げでは外部燃料タンクから大量の断熱材が剥離したが、その原因の一つに上げられたのが断熱材を重くしていた塗装だった。このため第三回目の打ち上げ (STS-3) 以降はタンクの塗装をやめたが、これで約270kgの重量を削ることもでき、一石二鳥となった。
また、水素タンク内部のストリンガと呼ばれる部品も飛行には不要であることが分かったために取り外され、この分の重量も軽くなった。この「軽量外部燃料タンク(LWT)」がそれ以降のほとんどのシャトルミッションで使われている。
さらにSTS-91 では「超軽量外部燃料タンク(SLWT)」と呼ばれる新タンクが初めて使用された。このタンクは2195アルミニウム=リチウム合金でできている。なおスペースシャトルは無人での飛行ができないため、これらの改良はすべて理論上の卓上試験を経ただけで、その後の実飛行においてぶっつけ本番の使用となっている。
なおSTS-114以降は、STS-107におけるコロンビア号の事故の直接原因となった前部バイポッド突起部からの断熱材の落下を防ぐため、不要な断熱材を極力取り除くなどといった仕様変更が行われている。
[編集] 固体ロケットブースタ
固体ロケットブースタ (SRB) の特に重要な改良は、チャレンジャー事故の後でセグメントの接合部分に3つ目のOリングが追加された点である。これ以外にも SRB には性能と安全性を向上させるための多数の改良が計画されていたが、現実には実施されなかった。改良計画の最終案として、より構造が単純でコストが安く、高い安全性と性能を備えた Advanced Solid Rocket Booster (ASRB) と呼ばれる改良型ブースタが1990年代初めから中頃にかけて製造され、国際宇宙ステーション計画の助けとなる予定だったが、後に経費節減のために中止された。しかし中止までには22億ドルの予算が既に投入されていた。ASRB 計画の中止によって、積載能力を増やすために超軽量外部タンクを開発する必要に迫られた。しかしこの改良では安全面の向上はなされていない。これに加えて、空軍でも独自にフィラメント巻方式による超軽量の一体型タンクを開発していたが、これも中止された。
[編集] 飛行システム
シャトルの機体は原設計から大きな変更点はないが、フライ・バイ・ワイヤー方式の飛行制御システムは改良が続けられている。オリジナルのシステムは IBM System/360 シリーズの中でも、高信頼性を追及した耐放射線仕様32ビットアビオニックスコンピュータであるIBM AP-101に操縦室のアナログディスプレイが接続されたもので、現代の DC-10 旅客機やボーイング767旅客機などに類似するものだった。初期のAP-101は424KBの磁気コアメモリとデータドライブを搭載し、処理速度は0.4MIPSであった。1990年に更新されたAP-101sはRAMが1MBになり、処理速度は1.2MIPSに向上した。
AP-101はDPS(データ処理システム)と呼ばれ、同型のシステム5台の多数決によって動作する。4台には同じソフトを搭載しているが、バグ対処のために第5コンピュータは別の手法で作成されたソフトが搭載されており、4台のプライマリコンピュータのバックアップに当たる。プライマリコンピュータは相互監視しながら協調動作を行い、故障機が発生した場合には残存機で補完する。プライマリコンピュータが全滅した場合には、バックアップコンピュータである第5コンピュータが使用される。
コンピュータのプログラミング言語には、高信頼性を確保するためにシャトル専用のHAL/S [17]が使用されている。今日では操縦室はグラスコックピットのシステムに交換され、コンピュータの高速化が図られている。
[編集] データ通信
スペースシャトルは常時地上とデジタル通信を行っているが、そのデータストリームは特殊なものであるためIP接続ができなかった。現在のスペースシャトルにはシスコシステムズの開発したOCA (Orbital Communications Adapter) と呼ばれるルーターによって、Kuバンド通信上で上り3Mbps、下り43MbpsでのIP接続が可能になり、Web閲覧、メール送受信、ビデオチャットやVoIPによる一般電話との接続も可能になり、地上の家族や友人とのプライベートなコミュニケーションも可能になっている。
[編集] コックピット
オービタは自動操縦ではなく人が操縦する。通常は2名で操縦するが、緊急時は1名でも操縦できる。
[編集] 使用状況
[編集] 主な用途
- 軌道上からの衛星打ち上げ
- 高い地球周回軌道を周る衛星
- チャンドラX線天文台
- TDRS 衛星
- DSCS-III (Defense Satellite Communications System、国防通信衛星) の2機同時打ち上げ
- その他の国防補助計画 (Defense Support Program) 関連衛星
- 惑星間軌道への探査機投入
- 高い地球周回軌道を周る衛星
[編集] 飛行統計データ
以下は2006年12月22日現在のもの。
| シャトル | 飛行 日数 |
軌道 周回数 |
飛行距離 | 飛行 回数 |
最長飛行 (日) |
乗員数 | 船外活動 回数 |
ドッキング回数 | 衛星 放出数 |
||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| (mi) | (km) | ミール | ISS | ||||||||
| コロンビア | 300.74 | 4,808 | 125,204,911 | 201,497,772 | 28 | 17.66 | 160 | 7 | 0 | 0 | 8 |
| チャレンジャー | 62.41 | 995 | 25,803,940 | 41,527,416 | 10 | 8.23 | 60 | 6 | 0 | 0 | 10 |
| ディスカバリー | 281.45 | 4,433 | 115,140,673 | 185,235,454 | 33 | 13.89 | 206 | 35 | 1 | 7 | 31 |
| アトランティス | 243.99 | 3,654 | 94,808,732 | 152,534,078 | 27 | 12.89 | 167 | 21 | 7 | 7 | 14 |
| エンデバー | 206.60 | 3,259 | 85,072,077 | 136,910,237 | 19 | 16.63 | 130 | 29 | 1 | 6 | 3 |
| 計 | 1,095.19 | 17,149 | 446,030,333 | 717,704,957 | 117 | - | 813 | 101 | 9 | 20 | 66 |
[編集] 日本人が搭乗のミッション
1. STS-47
- 飛行士: 毛利衛(ペイロード・スペシャリスト:当時)
- オービタ:エンデバー
- 滞在期間:1992年9月12日〜20日
2. STS-65
- 飛行士: 向井千秋(ペイロード・スペシャリスト)
- オービタ:コロンビア
- 滞在期間:1994年7月8日〜23日
3. STS-72
- 飛行士: 若田光一(ミッション・スペシャリスト)
- オービタ:エンデバー
- 滞在期間:1996年1月11日〜20日
4. STS-87
- 飛行士: 土井隆雄(ミッション・スペシャリスト)
- オービタ:コロンビア
- 滞在期間:1997年11月19日〜12月5日
5. STS-95
- 飛行士: 向井千秋(ペイロード・スペシャリスト)
- オービタ:ディスカバリー
- 滞在期間:1998年10月29日〜11月7日
6. STS-99
- 飛行士: 毛利衛(ミッション・スペシャリスト)
- オービタ:エンデバー
- 滞在期間:2000年2月11日〜22日
7. STS-92
- 飛行士: 若田光一(ミッション・スペシャリスト)
- オービタ:ディスカバリー
- 滞在期間:2000年10月11日〜24日
8. STS-114
- 飛行士: 野口聡一(ミッション・スペシャリスト)
- オービタ:ディスカバリー
- 滞在期間:2005年7月26日〜8月9日
9. STS-123
10. STS-124
11. STS-119
- 飛行士: 若田光一(ISS フライト・エンジニア)
- オービタ:ディスカバリー
- 打上予定:2009年2月12日[18]
- 備 考:ISS 第18次クルーとして国際宇宙ステーションに長期滞在の予定[18]
12. STS-127
- 飛行士: 若田光一(ISS フライト・エンジニア)
- オービタ:エンデバー
- 帰還予定:2009年6月4日[18]
13. STS-131
- 飛行士: 山崎直子
- オービタ:アトランティス
- 打上予定:2010年2月12日
[編集] 今後の計画
NASA にはかつて何度となく新型スペースシャトルの計画が提案されたが、米国政府の宇宙開発予算圧縮の方針などから全て実現されていない。そのため、機体の老朽化を初めとする多くの問題点を抱えている。
コロンビア号の事故後に新たな代替機の開発の必要性も叫ばれたが、2006年現在の政府方針ではスペースシャトルは2010年9月末で ISS の組立を終えて退役する予定となっている。
現在計画されているシャトルの後継機はアポロ司令船の大型版のような再使用型カプセルのオリオンで、2014年頃に有人での飛行試験を予定している。オリオンの打ち上げ用ロケットには、シャトルの SRB と ET を改造したものが転用される予定である。しかしどのみちシャトルの退役までには就航が間に合わず、ISS が予定通り完成したとしてもアメリカ担当分の必要物資・実験機器の輸送に支障が出る見込みとなるため、NASA は代替輸送手段の検討を行っている。
[編集] スペースシャトルシステムへの評価
2003年のコロンビア事故をきっかけとして、各国の宇宙開発関連の研究者や開発者からシステムとしてのスペースシャトルの功罪に関する再検討が多くなされるようになり、システム自体の欠陥を指摘する以下のような意見も出ている。なお参考までに、擁護意見も併記する。
| 論点 | 種別 | 意見 |
|---|---|---|
| 信頼性 | 批判 | 再利用する主エンジンの信頼性の低下とコスト上昇。少なくともこのようなシステムを衛星等の打ち上げに使用する必要性はなく、安全性を重視しなければならない有人機として見てもリスクが大きすぎる。また、宇宙実験室ならば、ミールや国際宇宙ステーションのような大規模ステーションの建設は勿論、サリュートのような使い捨て宇宙実験室で対応する事も限定的には可能である。 |
| 擁護 | 「人と貨物を同時に打ち上げる事」が目的でかつ、数十の別の実験装置を人が軌道上で操作し研究することが出来たのはスペースシャトルだけで、「軌道上の実験室」という無二の能力に対して支払われるコストであるということ。 | |
| 打ち上げ単価 | 批判 | 人間と貨物の同時打ち上げによる重量単価の上昇 |
| 安全対策の徹底による打ち上げ単価の上昇 | ||
| 衛星打ち上げ市場での使い捨ての無人ロケットとの価格競争での敗退。H-IIAやアリアン登場以前を含めても、シャトルが商業衛星打ち上げにおいて主流を占めた時期はない。また、シャトルと同等のロケットを使い捨ての無人打ち上げシステムとして運用すれば100t近いペイロードを低軌道に(おそらくシャトルよりかなり安く)投入することが可能であり、ロシアのエネルギアのような例もある。シャトルのようなシステムで大質量を宇宙空間に運ばなければならない理由はない。シャトル以上の物資を低軌道に投入できる使い捨てロケットが無かったのは、単に用途がなかったからに過ぎない。 | ||
| 擁護 | 主にアリアンやH-IIA等と比較される場合が多いが、実際には就役年に大きな開きがあるほか、用途もスペースシャトルの研究衛星の低軌道投入能力に対して、商用衛星の静止軌道投入能力と全くといっていいほど違う能力にそれぞれ特化しているので比べること自体がナンセンスである。また、低軌道投入に関してはスペースシャトルの24.4トンの打ち上げ能力が現在でも世界最大である。 | |
| ソユーズとの比較 | 批判 | ソユーズより劣った経済・安全性。シャトルが14名の犠牲者を出した期間、ソユーズは一名の犠牲者も出していない。(それ以前には1967年のソユーズ1号墜落事故で1名、1971年のソユーズ11号空気漏れ事故で3名の死者を出している。)また、シャトルは僅か百回強の飛行で2度の致命的な事故を起こした。これは如何なる理由があれ、有人機として適切な安全基準を満たしているとはいえない。 |
| 擁護 | そもそもソユーズは軌道上の宇宙への到達及び、ミール等宇宙ステーションとの往復が目的であり、軌道上の実験プラットフォームであるスペースシャトルとは目的・設計運用思想の異なった物でバイク(ソユーズ)と多目的トラック(シャトル)を比べるような物である。乗員の保護に関し、シャトルはGプロフィルが低く長期飛行後の飛行士を帰還させるのに有利であり、また緊急医療を行いながら飛行のできる空間的余裕がある点で優れている。 | |
| 安全性と効率性 | 批判 | 再突入後15分しか使われないオービタの主翼を打ち上げる非効率性 |
| 超高温となるオービタ底面の着陸脚及び燃料補充口を開ける安全性の無視 | ||
| 大気圏突入時に過酷な環境に置かれるオービター下部を打ち上げ時に保護することが不可能 | ||
| 擁護 | 翼を持つことによって宇宙空間から実験の試料や人工衛星などをパラシュートよりはるかに安全かつ安定した形で地上に届けることができ、そのために当然支払われるべきコストである。もしパラシュートでそれを実現しようとすればジェネシスのようなアクロバットを必要とする。実際、衛星軌道上の実験衛星を実験終了後、機体すべてを地球に持ち帰るようなミッションもこなしている。 | |
| 固体ロケットの使用と緊急脱出システム | 批判 | 非常時に燃焼中止のできない固体燃料ロケットの使用 |
| 非常時の緊急脱出システムがない。ソユーズ型宇宙船では緊急脱出用のロケットが搭載されていて、ロケット本体に致命的な事態が発生した場合カプセル部のみをロケットより離脱させて人命を守る事が可能である。これに対してシャトルには緊急脱出できるシステムがついていない。(初期のテスト的な意味合いの強かった頃は一部の席に射出座席を設けていた。)耐熱タイル等の問題とあわせ、シャトルの人命を軽視した設計の象徴との指摘もある。 | ||
| 擁護 | 常識として液体燃料ロケットより固体燃料ロケットのほうが信頼性が高く、また液体燃料ロケットであっても非常時に確実に燃焼中止できるとはかぎらない。実際、液体固体ともエンジンそのものの不調により使用不能になることはなったことはないが、エンジンを含めたシステム全体では液体(液体燃料タンクとオービタエンジン部)が2回と固体(SRB)が1回、運行に対して非常に大きな危機を発生させ、それぞれ一回ずつ、機体が失われている。固体ロケットのみが危険であるわけではない。また、かなり非現実的な手段ではあるが、限定的な脱出手段は持っている。 |
上記のように、批判意見と擁護意見は現在の技術を元に批判するのか、当時の技術を元に擁護するのかとそれぞれの立ち位置において、異にしている。特に擁護意見の多くは"批判は現在の水準で語られており、20年前から現在までの時代の流れや技術の進歩、重視される能力の変化、宇宙開発の目的の変化についての視点に欠けている"というものだ。
当初のスペースシャトルシステム設計・構築時の目標は「宇宙空間に断続的ながらも総入れ替え可能な実験設備または、大重量の貨物を人と同時に打ち上げ、それらの相乗効果を得る事」であった。しかし、この設計思想自体が、それまでNASAが蓄積し、更新してきた技術及び、その体系から飛躍しすぎ、足元を疎かにした計画であったという事がNASA内部での反省・評価の結論であり、当時の技術に打ち上げ機器の極端な汎用性を求める事自体が間違いであったと総括されている。また、NASAが当初計画していた商業衛星の打ち上げ等に関しては議会へのアピールを主目的としており、採算性について考慮されていなかったと見る向きもある。
さらに、スペースシャトルの利用を前提として計画された国際宇宙ステーション計画が、事故に伴うシャトルミッションの凍結の影響で5年以上も打ち上げ延期されるなど、ミッション遂行に関するISS運営側のリスクマネジメントの不備も指摘されている。
その結果、オリオンに見られるように個々のプロジェクトに最適化して、打ち上げる装置・手段を選択でき、コストパフォーマンスを上げられるようなシステムを優先させることになった。
これらの動きを見渡すと、批判を容認し、その意見を建設的に取り込もうとするNASAや宇宙産業を取り巻く環境の健全性を見て取れる。一般にシステムというのは冷静に、しかもその時代の汎用的な技術設計論を元に新たに構築するものであり、時代遅れで陳腐化した技術や技術論について、批判的・否定的な意見が出ることは、その技術体系を司るエンジニアとそれを評論する機能が健常に機能しているものと判断される。 ただし、CEV計画自体においても、シャトルプロジェクトからの急速な切り替えに起因する問題点を内包しており、筋肉質の強引なやり方という批判が存在している事も事実である。
